story-4
ここまで来れば大丈夫かな、と良くある漫画かドラマのようなセリフでもっての手首を放した瞬間に平手打ちが飛んできた。
「お前さあ、なんなわけ!? 俺が助けてって頼んだ!? ヒーローでも気取ってんの!?」
怒りに燃える金色の瞳に睨まれ、ブルーノは思わず一歩後ずさる。
「いや、ヒーローは……気取ってないかな……?」
そもそも、ヒーローを気取りたければ悪漢二人を相手に殴り合いでもしただろう。生憎、自分にそういう器は無い。
「ハァ!? じゃあマジでお前なんなわけ!? 大体どこに遊星がいるって!? いねぇじゃねぇか!!」
「だって君、無理矢理でもあそこから離さないとまたポケットからナイフを出すところだっただろう? そんな事、させられないよ」
甲高い声で怒鳴り散らすとは反対に、極めて冷静にそう言えば、彼女はぎょっとした表情でブルーノを見た。心なしか、その顔は青い。
「見てたのか」
ころりと代わって低くなったその声に、ブルーノは思わず唾を飲む。
「見てたんだな? ……いつからだよ……いつから見てたんだよ、答えろ。おい、答えろよ」
低く、何かにとり憑かれたように早口に言う声と、追い詰められたような眼。詰め寄ってきたの細い指が腕に食い込んだ。まばたきすら忘れた、はちみつの瞳。壊れた人形のように繰り返される同じ問い。
言いようの無い圧力に、何か答えようと開きかけた口はそのまま止まってしまった。誰に言われるまでもなくわかる。きっと今の彼女には、どんな言葉も届かない。
どうする事もできず途方に暮れるブルーノに、しかし助けはやってきた。
「ブルーノ! !」
名前を呼ばれ振り向くと、遊星がこちらへ走ってくるところで、ほっとしたブルーノは自分の身体から力が抜けるのを感じた。
「遊星っ!」
どうやら自分は余計な事をしてしまったようだと状況説明をするまでもなく。様子を見て察したらしい遊星は駆け寄ってきてすぐさま、問答無用でに向かって手刀を振り下ろした。
仮にも女の子に向かっていきなりの攻撃はどうかと思うが、の圧力から解放されて「助かった」と思ってしまったのも事実で、軽く罪悪感を覚える。
ついさっき「暴力反対」と訴えておきながら、を気絶させることでほっとしてしまった自分が情けなかった。
「大丈夫か、ブルーノ。すまない。俺が少し目を離したばっかりに……」
がくりと力を失ったを支えながら言う遊星にブルーノは首を振る。
「そんな事よりも遊星、は大丈夫なの?」
遊星の手刀だ。絶対に、ダメージは大きいに決まっている。目が覚めたら首あたりに変な痛みが残っているかもしれない。
「まあ大丈夫だろう。こう見えてもそんなにやわな作りじゃない」
「……」
それを遊星が決めてしまうのもどうかと思うな、とは言えず。
「それに、から怒られるのは多分俺一人だろうから。ブルーノはこいつを助けてくれたんだろう?」
気を失っている少女の代わりか、ありがとう、と言う遊星に、ブルーノは微妙な表情しかできなかった。
彼女はきっと、目が覚めても余計なお世話だとしか言わないだろうし、絡まれていたのだって、もしかしたらが自身の力で解決できたかもしれないのだ。
その方法が平和的かどうかは別にして。
を背負った遊星の代わりに、買った荷物を引き受けて、ブルーノは遊星と並んでポッポハウスへの家路についた。
少女が目を覚ます気配は、無かった。