空に溶けるゆびきり

 伸ばした手の中から飛び立つ鳥を見送った。
 淡く優しい水色の空を遠くへ向う白い鳥は、優しい空色に染まって溶けてしまいそうで、それが悲しかった。
 そのままでいいんだよ、と伝えたくとも、声は届かない。
 その純白はとても美しいから、染まる必要なんて無いんだよ、と。
 籠の中から、そしてこの腕の中から。自由になったあなたは、そのままの姿で空を駆ける事を許されているのだから。

「そうでしょ、キサラ」

 届かない声が柔らかく零れる。
 そう、声は届かないのだ。
 わかっていても言葉にせずにはいられなかった。
 もう二度と戻って来ないだろう白い鳥は、いなくなってしまった友を彷彿とさせた。
 その生まれ持った容姿故に異端であり、染まることも許されなかった。

 彼女が街で暮すことのできる国にする。
 それを目標にしていたのに、キサラは実現する前に行ってしまった。
 届かない場所に飛んでいってしまった。
 何が早くて何が遅かったのか、それを考える事は無意味だと思いながら、彼女が飛び立った優しい色の空を見上げた。
 白い鳥は、もう見えない。

「私達、次に生まれるときはあんな争いの無い世界で会おう」

 指を切る相手のいない言葉は、約束よりも決意に近く。
 受け手のいないその声は砂塵を巻き上げる風にさらわれた。

一方通行の約束でもいい。
あなたと生きる世界が、私の夢。