私は願う
予感は、確かな現実になった。
目の前で涙を流しながら腕を掴むは、もうここへは来れないのだ。
初めて会った時から、彼女は王宮神官になるのが夢だと言っていた。
赤い瞳を輝かせてそう語る彼女の夢が叶うようにと、願っていたのは本心だった。
それでも、心に滲む悲しみ。
嬉しいのに。
が自分の夢に近付くのは、とても嬉しいのに。それなのに、どうして寂しさが生まれるのか。
それに、なぜが泣いているのだろう。
一番嬉しいのは彼女のはずで、自分が泣いているのならまだしも彼女が泣くなんておかしいじゃないか。
は今日は泣いてはいけないのに。
少なくとも、会えなくなると解っているなら泣き顔なんか見せないで欲しいのに。
「、笑わなきゃ。ね?」
繰り返した言葉に、赤い目をさらに赤くしたはキサラをじっと見て口を開く。
「一緒に行こう、キサラ」
力強い声に、思わず瞬きを繰り返す。
「、それは」
「一緒に街に行こう。ここに一人で隠れてる事なんてない。私と、街に行こう」
遮られた言葉は、胸の奥に沈んでゆく。
笑っていようと思ったのに、目の前のがゆるりと震えた。
締め付けられる胸。
答えが見つからない。
たまらなく嬉しい言葉なのに、頷く事の出来ない自分。
ゆっくりと息を吸うと身体が震えそうになる。
腕を掴む褐色の手に、自分の白い手を重ねた。
平静を装って口から零れ落ちたのは約束の証。
「待ってるから、頑張って行ってきてね、」
その瞬間の、のひどく傷ついたような顔は一生忘れない。
「私は、ここでを待ってる。お願い、解って? 街には行けないの」
また泣き出しそうな友の手を握る手に力を込める。
「代わりに、私はここにいるわ」
見つめる紅い瞳は、キサラにとって幸福の証。
「ずっと、あなたが、来るまで待ってるから」
それが、どんなに長くても。
つらくても。
「だから、早く立派な神官になってね」
しきりに頷くがまた泣きそうになって、キサラは思わず苦笑した。
私は何も怖くない。
だから、どうか笑っていて。