言えない本心

 神殿から使いの人が来て、彼は王宮神官への道が開かれた事を告げた。
 膝をついて感謝を述べる母の横で、喜びと共に予期せぬ寂しさが襲ってきたのを確かに感じた。
 心に浮かんだのは、先に王宮へ行ってしまったジョーノでも、泣いて喜ぶ母でもなく、ただ優しく微笑むキサラの顔。
 思わず駆け出した背中に、母の声が飛んできたのを気にも止めずに、ただ彼女のいる砂漠の辺境の地を目指した。

 一刻も早く知らせたい。
 けれど、知らせてしまえば、彼女はどうするだろう。
 喜んでくれるだろうか。きっと喜んでくれる。

 でも、気付いてしまった。

 王宮へ行ってしまえば、もう今までのようにキサラと会うことは出来ない。
 夜毎部屋を抜け出して会いに行くなんて、出来なくなる。
 とても嬉しいのに、心は隠しきれない寂しさを訴えかけていた。

「キサラっ!!」

 名前を呼ぶと、息を呑むほど美しい横顔がこちらを向いた。
 零れ落ちる笑顔に、胸がいっぱいになる。

「どうしたの? 

 尋ねる声は穏やかで、それに答える自分の声は震えていた。

「わ、私……」

 キサラの腕を掴んだ手に力が入る。

「うん?」

 先を促すように首を傾げるキサラの青い瞳を見つめる。

「……王宮に、行くことに……なった、よ……」

 言いながら、目の奥が熱くなってくるのを感じた。
 驚いたように一瞬目を見開いたキサラが、すぐに微笑んで「おめでとう」と言ったその声に頷くと、目の前がゆらりと揺らいだ。

「どうして泣くの? おめでたい事なのに、笑わなきゃ」

 微笑みながら、困ったように言うキサラの言葉が、胸に熱く染み込んできた。

あなたと離れたくない。
例えそれが、
待ち望んだ夢のためでも。