泣いてなんかやらない

 ぽちゃん。

 水路に投げ込んだ小石が音を立てた。

「むかつく」

 呟いて、もう一度、ぽちゃん。
 投げた石はまた音を立てる。

「なんなわけ、あのひと」

 呟きも、水路に落ちる。
 石や声だけじゃなくて、いっそ自分が飛び込みたい位だ。
 けど、王宮でそんな事したらただじゃ済まないから、両腕押さえて必死に我慢。
 こんな時、我慢する練習をしておいて良かったって心から母さんに感謝する。
 毎日毎日、まるで嫌がらせのように鋭い視線が飛んできては、冷たい声が無茶難題をふっかけてくる。
 冷ややかな青い瞳は、私の親友とは大違いで、同じ青でもこんなに違うんだと、王宮に入って初めて知った。

「キサラ、元気かな……」

 ため息のように呟いて、また小石が水音を立てる。
 会いたいな。今、とうしてるんだろう。
 キサラの青い目は凄く優しくて暖かい。あの声は、また私の心に恵みの雨のように染み込むんだろうな。

「私、あの人に何かした?」

 試験で会ってからこっち、ろくに話もしてないのに、何でああも露骨に突き放すんだろう。
 まるで試すように。

 辞めろってか、そうなのか。
 遠回しに辞めろって言ってんのか。

「くっそ。辞めるもんか」

 悔しいったらない。
 お前を認めない、とばかりに名前すら呼ばれた事ないし。

「負けないんだから」

 あんな俺様が神官団の一人だなんて信じたくもない。
 だから、そんな人が辞めろって言っても絶対辞めない。
 むしろお前が辞めちゃえよ。

「いつか頭下げさせてやる。覚えてろよ」

 呟いて、ごしごし目をこすった。
 睨むように空を見ると、晴れた空はやっぱりキサラの瞳とも、あの神官様の眼とも同じ色で、ひどく複雑な気分になる。

どうやら天敵に出会ったようだよ
君ならどうするかな?