ありがとうより大切な

「んー、キサラはさ、可愛いんだからもっとお洒落すれば絶対誰も見たことないような美しさになると思うんだよね」

 そう言いながら器用に私の髪を編んでゆく
 なんだかこそばゆくて、思わず肩をすくめると、動かないでー、とに押さえられる。

「できた! 我ながら惚れ惚れしちゃうなぁ」
「もう、ったら」

 思わず苦笑すると、ひどく真面目な顔で彼女は私を見つめた。

「あのね、キサラは自分の魅力を全然わかってない! 月の光みたいな綺麗な髪に、透き通るみたいな白い肌に、砂漠の空みたいな青い瞳! まるで女神様みたいなんだから!! 同じ人間だと思えないもん!」

 本当に綺麗なんだよ、とむくれる彼女の方がずっと可愛らしいのに。

「私、キサラがこうやって隠れるように暮らしてるのが本当に悔しい」
「私は平気よ? もこうやって来てくれるし……」

 あなたのその気持ちだけで十分なのに。

「平気な訳ないでしょ!?  キサラだって街で暮らしていいはずだよ!!」
「……それはだめよ」
「なんで!? おかしいじゃん!」
「だめなのよ、……」

 私は災厄を運ぶから、街に入ってはいけない。
 ずっと言われていた。
 お前は災厄を運ぶ娘だと。
 周りの人を巻き込みたくないなら、本当は誰とも会ったりしちゃいけない。
 誰かと会ったりしちゃいけないのに。
 なのにはいつも私を訪ねて来てくれる。

「私ね、がここにいるだけでいいの」

 けれど、本当は凄く不安なの。

「あなたが元気で笑ってくれてるだけで安心するの」

 その笑顔を、いつか私自身の手で消してしまいそうで。

「だから、私の事なんて心配しないで?」

 そしてどうか、いっそ忘れてしまって。

「ばかだなぁ、キサラは……」

 心配しないでなんて無理な注文だよ。
 困ったような微笑みでそう言った彼女は、ぎゅっと私の手を握った。
 その表情に、その手の温かさに、私は胸が痛くなる。
 そして、心底思ったのだ。
 神様、に出会わせてくれてありがとうございます、と。

忘れて欲しい、なんて、嘘。
本当はその反対なの。