置いて行くなと言いかけた
「今度ね、ジョーノに紹介したい人がいるんだ」
真っ暗な帰り道、そう言われて心臓が跳ねた。
「ま……まさか男か!?」
思わず尋ねると、幼なじみは「残念」と笑う。
「すっごい可愛い女の子! 惚れるなよ? あんたには勿体ないからね」
「へーへー。わかりましたよ。つか、驚いて損したぜ。に男とかあり得ねぇよなぁ」
色気の欠けらも見えないし、そもそも色恋に興味があるのかすら怪しい。
「何それ、ばかにしてんの? 今日だってあんたんちの店で結構声かけられたんだからね」
とか言いながら睨み付けてくるけど……
「残念だったな、。オッサン達は若いってだけで可愛がってくれんだよ」
うちの店の客層は、どちらかと言うと年齢高めだ。給仕の仕事を手伝いに来てくれるは、常連客からも人気者で、こいつが来ると売り上げもあがるとかでお袋は良く店の手伝いを頼んでいた。
今もまさに、手伝いに来てくれたを家まで送る途中だったりする。
「いいのよ、それでも。だっておじさん達、色々お土産くれるから」
笑いながら言うは、確かに元気も良くて素直だし、いつも屈託なく笑ってるから接客に向いてるんだろう。
実際、こいつは店でも良く働いてくれるし。
神官なんかよりも、いっそ酒場の給仕とかの方が向いてるんじゃないか?
とは、絶対言えないけどな。
「って言うかね、ジョーノ?」
不意に声を落としたを見る。
それだけで先を促したのを分かったは、ゆっくりと続けた。
「私さ、その子の事、本当に大好きだし、今までたくさん苦労してきた子だから、傷つけたりしたくないの」
「あぁ……」
その気持ちはわからんでもない。
「だからね……」
俺を見上げる赤い瞳が、強い視線を放つ。
「約束して。……私がその子を連れてきた時、絶対に拒絶しないで」
拒絶。
その単語に微かな違和感を感じる。
けれど、の顔は至って真面目で、どこまでも本気だった。
月光に照らされたその顔を見下ろして、どこか遠くで思ったんだ。
こいつ、小さくなったなぁ。
いつも態度がでかくて、平気で人の事ぶん殴るし、やってる事はガキん頃と全く変わり無い。
なのに、少し上にあった赤い目はいつの間にか随分下になっていて、えらく頼もしく感じていた背中は気付いたらひどく小さくなっていた。
それは、俺が成長したって事だ。
ずっとの背中に隠れてた臆病なガキだった。
いつか、この男勝りな幼なじみを追い抜いてやる、って思ってた。
あぁ、思い出した。
ガキはガキなりに。あの頃の俺は、いつかを守れるくらい強くなりたいと願ってたんだ。
まぁ、結論から言えば、は守ってやる必要なんか、これっぽっちも無く相変わらず逞しいが。
でも、今の俺、ちょっとは頼れる男になったかな?
不安げなの表情を見てそんな事を思う。
世にも珍しい彼女のお願いを、
「俺が嫌だなんて言うわけ無いだろ? それに、の友達なら、俺にとってもダチだろーが」
笑って言うと、の顔に花が咲いた。
「ありがと、ジョーノ。やっぱあんたで良かったよ」
そう言うの表情はあまりに優しくて、大人びていて、俺はまたこいつに追い越されたような気がした。
いつも一歩先を歩いていたは、やっぱり今も俺の一歩先にいるようだ。
ひどく遠く感じられた