悪友は悪友のままで
伸ばされた大きな手が、私の頬に触れた。
私と違って、ごつごつした手が何だかこそばゆい。
まっすぐに私を見るバクラの、夕暮れの色をした瞳に私の顔が映っている。
「……」
低い声で名前を呼ばれれば、ぞくりと背筋を駆け抜ける感覚。
彼の唇がゆっくり弧を描いた。
ああ、何よ、笑ってんじゃないわよ。
よくわからない不安を感じながら、口にできない悪態を胸に留めて、私はバクラを見上げる。
「お前……」
低く、静かに言って、彼は――
「あだだだだだいッ!!」
「てめー調子づいてんじゃねぇよその場所は俺様の特等席だって言ってんじゃねぇかよ!!」
「はやいもん勝ちだつったでしょ、ばぁか!! 放せ!! 顔が歪むッ!!」
私のほっぺたを力一杯引っ張るバクラ。
オアシスの特等席を盗ったと言うけれど、私はあんたよりずーっと早くからここにいたのよ!
「もとから歪んでんだろぉが、ブスッ!!」
「な……んだってぇ、こんのチンピラがぁッ!!」
でたらめに突き出した右腕。
「う゛っ……」
それは思いっきりバクラのみぞおちに命中した。
奇跡。
「こ、のやろ。いい拳持ってんじゃねーか」
「バクラが悪いッ!!」
言って突き飛ばした彼は、バランスを崩してよろりと泉に落ちた。
「ざまぁ!」
勝利に笑った私が、彼の手により泉に引き込まれるのは十秒後。
二回戦開始。
取っ組み合いは、続く。
取っ組み合いは、続く。