女子会は混乱を極め

 ぱたぱたと、小さく聞こえた足音は部屋の前で止まって、ひょっこりと入り口から顔が覗いた。



 可愛い声で名前を呼ばれて、思わず笑みが漏れる。

「いらっしゃい、マナ」
「えへへ~今日はね、厨房からお土産貰ってきたの!」

 と、満面の笑みで掲げた手には、酒瓶が。
 あ、あれー?
 私ら、修行中なのにお酒とか飲んでいいんだっけ?
 考えるそばから、彼女は反対の手も揚げる。

「おつまみもっ」

 そこには、しっかりと食糧の盛られた皿。
 あ、あっれー?
 これ、勝手に盗ってきたとかじゃないよねぇ?

 私の心配をよそに、マナはテーブルの上にそれらを置くと、いつものように椅子の上にちょこんと座った。

「えーと……さ、マナさん?」
「なぁに?」

 控えめに呼び掛けると、彼女は上機嫌で首を傾げる。
 その仕草がいちいち可愛らしいったらない。これは絶対、マナの武器だ。

「これって……」

 食べていいの?

 言葉にならなかった質問を理解したらしい彼女は、「大丈夫よぉ」と手を振る。

「ちゃんと厨房から貰ってきたんだから、怪しくなんかないって!」
「うん、ならいいんだけど……」

 小さい頃から王宮で育ったらしいマナは、ここでは顔も広くて人気者だ。
 厨房でも、私が行くよりずっと簡単に食べ物を分けてもらえるんだろうなぁ。
 と言うか、よく食べ物を貰っては私の部屋に来る辺り、この推測は限りなく真実なんだろうけど。

 乾杯をして、口をつけたお酒はまったり甘くて、幸せな気分になる。
 ふわふわ甘く揺れる感覚が変な感じだけど、決して嫌じゃない。

「ねぇ、~! 聞いてる!?」
「聞いてるよ? で、マハード様が女官に告られてどうなったの」

 赤い顔のマナは潤んだ目でどんっ、とテーブルを叩いた。

「お師匠様は! お師匠様はあたしのお師匠様なのー!! だから、上からたらい落としてやったのッ!!」
「ひゅ~、やるねぇ」
「でもそしたらお師匠様の上にたらいが落ちちゃったのー!!」

 テーブルに突っ伏したマナには悪いけど、私大爆笑。

「それでマハード様に怒られちゃっんだね?」

 こくりと頷いたマナのほっぺたを、つんとつついた。

「人が勇気を出してる時にそういう事をしてはいけない。ましてや魔法でいたずらをするなど言語道断だ! ……って」

 マハード様の物まねをしながら言うマナ。

「まぁね。マナもマナだけど、マハード様鈍くない? マナの焼きもち、すっごいわかりやすいのにさぁ」
「でしょー!?」
ぐびりとコップの中身を飲み干したマナはもう一度、テーブルを叩いた。
「あの鈍ちんに一言言うー! 突撃するー!!」
「うおー、いってやれッ!! 乙女心ぶつけてやれーッ!!」

 冷静に考えて、酔っ払いが乙女心もへったくれも無いんだけどさ。
 すっかりできあがった私達は、元気良くマハード様のもとへ出発した。歌なんか歌いながら。

 程なくして、中庭まで来た所で私達はマハード様と無事遭遇。
 大きく手を振りながら先に声をかけたのはマナだった。

「おししょーさまー!」
「マナ? ……お前……」

 明らかに高すぎるテンションをおかしく思ったマハード様が私達の手にしっかり握ったお酒に気付いたのはすぐだった。

、お前までいながら何という事だ……」
「うはは、マハード様ってばこのイケメン!」
「………………は?」
「おししょーさまのにぶめんッ!!」
「………………………………にぶめん?」

 あんぐりと口を開けるマハード様は、それでもやっぱり立派な神官様だった。

「いい加減にしなさい、マナ! 相変わらず弱いのだから、酒は駄目だと言っただろう!」

 コップを取り上げられたマナは口をとがらせてマハード様を見上げる。

「なによー、おししょーさまだって、全然あたしの気持ちにきづいてくれないくせにー」
「そーだぞー、マハードさまぁッ!! 乙女心は傷つきやすいんだぞぉッ!!」
、くっつくな、酒臭い……」「ほらぁっ! おししょーさまぁのそういうとこが、にぶめんなんですよっ!」
「私の乙女心傷ついた! ちょー傷ついたッ!!」
「………………………………」

 引きつった表情のマハード様は、困ったように私達を見た。
 うふふ、やっぱイケメンだわ、マハード様ッ!

「だから、マハードさまも、一緒にのみましょぉ!」
「どうしてそうなるんだ!!」
「どぉしてだめなんれすかー!おししょーさまぁー!」
「マナ!! 呂律が怪しいぞ!!」

「うふふ~」
「うっへっへ」
「っ……! 二人とも、いい加減にッ……!! マナ! どこを触ってるんだッ!! とととッ!! 脱がすなァッ!!」


 その後、慌てたシャダ様と筋肉のカリム様がやって来て無理やりマハード様から引き剥がした所でマナはダウン。
 私はと言えば、逃げようとしてカリム様に取り押さえられて自室へ連行。
 次の日目が覚めれば、ひどい二日酔いだったのは言うまでもなくて、私とマナの違うところと言えば、昨夜の記憶が有るか無いか。

覚えてないほうがまだましよ。
ああ、彼女が羨ましい。