彼らは彼女を覚醒させた

 擦り剥いた手のひらが、膝小僧が、じりじり痛い。
 汗で湿った体はひどく不快で、「あぁ、水浴びしたいな」なんて、場違いな事を考えた。
 これって危機感欠けてるのかな。

 * * *

「立て」

 と、剣先を私に向ける美麗の神官様。
 確か武術の訓練だったはずなのに、どうして私はこの人と一対一で向き合っているんだろう。
 訳の解らない間に闘技場に引き上げられて、持った事もないのに重たい剣を持たされたのは覚えてるけど。

「立てと言ったのが聞こえなかったか」

 再び立てと言う低い声は冷たくて、心臓がひやりとする。
 この人、本気で私を斬るんじゃないだろうか。
 誰か止めてよ。
 私が戦える訳無いでしょ。

 けれど、遠くでこちらを見る同期達は動くのを忘れたように固まってる。
 何、結局人を頼るなって事?
 もう、やってらんない!

「たかがこれしきで降参か」

 神官様は冷たい声で言う。
 降参なんか、してないわ!!
 睨み付けると、彼は鼻で笑った。
 悔しいことに、それでもこの人はいい男だ。好みではないけど。

「お前は、何の為に神官を志した。それでファラオをお守りできると思っているのか」

 続けられた言葉に、体が熱くなるような気がした。

 何の為か、なんて決まってる。
 大好きな友達が、街で暮らすため。彼女に、笑顔で生きて欲しいから。
 ファラオなんて知らないわ。
 守りたいのは遠い誰かじゃない。
 近くの大切な人。

(キサラ……)

 待ってて。
 私、すぐ会いに行く。
 これが終われば、また前みたいに、前以上に、いやと言う程会いに行くから。

 けれど意識は暗闇に落ちた。

それは、
漆黒の竜が、目覚めたとき