負けたくない

、最近何かあったのか?」

 木の棒で素振りをしながら言うのは、小さな頃から腐れ縁のジョーノ。
 王宮の兵士になりたいと言う彼は、今度の兵士募集に意気込んでいるようだ。
 まぁ、同じく王宮の神官志望の私も、人の事は言えないんだけどね。

 しかも、兵士と違って神官の募集は年に一回あれば良いほう。ついでに、採用されても正式な神官になるためには、また神殿の学校で勉強しなくてはいけない。
 そもそも採用人数だってごく少数だし、いつ募集があってもいいように普段から十分勉強しとかないと、王宮の神官なんて夢のまた夢。

「何も無いわ。あんたと違って神官募集のお知らせも無いしね」
「なんだよ、皮肉かー?」

 にやりと笑う彼に、私は微笑みを返す。

「勘違いしないでよ、ジョーノ?あんたなんかが王宮兵士になれる訳ないでしょ。おとなしく自分ちの手伝いしなさいよ」

 おじちゃんとおばちゃん、いつも二人でお店やってるじゃない。
 続いた私の言葉に、ジョーノはムッとした顔を隠そうともしない。

「俺は酒場の息子じゃ終わらねぇって何回言えばわかんだよ」
「はいはい、国を守れるでっかい男になるんでしょ?」

 そんな口癖、とっくに覚えてるわ。

 相手する時間が惜しくて、私は立ち上がると伸びをした。

「あ、どこ行くんだよ、!」
「関係ないでしょ? 私にだって用事があるんだから」

 横目で言って、背を向け歩きだす。
 三歩進んだところで、ジョーノが叫んだ。


「なんだよ、悔しいなら悔しいって言えばいいだろッ!! おまえも早く追い付いてこい!!」

 不覚。
 一瞬立ち止まってしまった。

「……なによ」

 ばか。
 小さく呟いて、歩きだす。

 いっちょ前に励ましたつもり?
 私はなんともないんだから。
 いつっも私の後ろに付いて回ってるだけのチビだったくせに。
 いつの間にか、私より大きくなって、手を伸ばしたって頭のてっぺんを叩く事もできやしない。
 いつも私の後ろにいたのに、私の背中に隠れていたのに、今じゃ私の背中のほうが小さくなってる。

 どうしようもなく、いらいらするのよ。

 いつも私が前を歩いてた
 ジョーノは私の後ろにいた。

 なのに気付いたら、追い越されてた。
 伸びた身長、大きくなった背中。
 夢への距離も。
 いつの間にか、ジョーノの方が前にいた。

 悔しくなんかない。
 絶対泣かない。泣いたりしない。
 泣かないけど、絶対いつか。
 必ずまた、私が追い越すんだから。
 だから待ってなさい。
 私はすぐに、そこに立つ。

滲んだ景色を睨みつけ、
歩く。