はじめましてより前の話
私、ひからびて死んじゃうんだ。
とおのく意識で思った。
勢い任せに街を飛び出したりしなきゃよかった。
昔から言われてたんだよね、「お前はカッとなったら止まらないんだから」って。
そりゃ、反省してるよ。
落ち着こうって気を付けてもいたし。
だってこんな性格じや、王宮の神官になんてなれっこないもん。
だからずっと、変わろうと思って我慢してたのに。
あー、ずっと我慢してた分も全部まとめて爆発しちゃったんだ。絶対そうだ。
全部水の泡じゃん。
サイアク。
しかも砂漠に行き倒れとか、もっとサイアク。
死ぬ前に、やっぱり一回は、王宮の神殿に、行きたかったなぁ…
神様、ひどいよ。
私、あんなに毎日、お祈りしてたのにさ。
* * *
街の外へ出てはだめ。
それは、小さい頃から嫌というほど聞かされた母さんの言葉。
ファラオに守られたこの街を出てしまったら、砂漠には恐ろしい魔物と、盗賊がいるから。
持ち物だけでなく、命までもとられてしまうよ。
だから、街の外に出てはだめ。
約束を破ったのは、本当に頭に血が上ったから。
ほんの些細な事だったけど、何だかいらいらして、勉強だってうまくできなくて、もうどうにでもなってしまえ! って、そんな気分だった。
そして気が付いたら、私は砂漠の真ん中で、わんわん泣いていた。
泣いて疲れて、そして私は、暑さに倒れた。
これって凄い自業自得。
めまいが酷くて、音が遠い。
眩しい砂漠は、まるで白いもやがかかったように見える。太陽を反射する砂は確かに眩しいのに、今私の目に見える砂漠は、白く滲んでいる。
眩しさじゃなく、もっと別の理由で目が開けられない。
喉が、ひりひりする。水が欲しい。
つか、泣いたりして余計水分抜けたんじゃないだろうか。
倒れこんだ砂が熱いのか、太陽が熱いのか。それとも、私自身が熱いのかも。
とにかく、私の周りのもの全てが、異常なくらい熱を帯びてた。
こんなとこでミイラになるには、私まだ若すぎませんか。アヌビスってばそんなに急いで迎えに来なくてもいいわよ。いやまじで。
体に力が入らなくて、声なんて出やしない。
ああ、私、ここでひからびちゃうんだ……
だってほら、目の前に女神がいるもん。
こんなに綺麗な女神様のお迎えなら、悪くないかも……
白い肌の、輝く銀髪の女神は、私に手を差し出した。
私は自分の命の危機だというのに、なぜか安心して、目を閉じた。
私を迎えに来たはずの女神様は、なぜかとても悲しそうな目をしていた。