「おーい、ちゃん!」
獏良の声に、赤い瞳が柔らかく微笑む。
「お疲れー、了ちゃん」
そう答える彼女に早く伝えたい事があって、壁に貼ってある『廊下を走るな』のポスターを無視した。
「ちょっと聞いてよちゃん!」
ダッシュしながら言った瞬間、足がもつれて体が傾いた。顔から倒れる、と嫌な予感。
「うわ、危ないッ!!」
の声が聞こえて、来るはずの衝撃は来なかった。
代わりにぽふんと柔らかい感触が彼を受けとめる。
「あれぇ?」
思わず呟いて目を開けると、獏良の目先二センチに毎日目にする制服の布目があった。
正確には制服の胸元。
「ちゃんと足元注意しなよ。でかい図体してんだから、次はキャッチできないよ?」
聞き慣れた声が頭の上から降ってくる。顔をあげれは、すぐそこにの顔。
「十分気を付けてるつもりなんだけどなぁ…」
「じゃあ何も無い廊下でこけたりしないでよ」
呟くと、呆れたように言われて思わず苦笑した。
「うわ、お前ら何やってんだ!!」
と、怒鳴り声が入ってきて獏良の腕を引く。
「!! お前も少しは恥じらえ!! 何で宿主が、その……なん、だ…」
顔を赤くし、口籠もるバクラ。
彼の代わりに獏良が言う。
「ちゃんのおっぱい?」
「っだぁーーー!! 普通に言うな!!」
一層大きくなった怒鳴り声。
きょとんとした獏良と、小さく顔をしかめた。
「まわりに迷惑だよ、バクラ」
「そうそう。それに了ちゃんは私の乳になんて興味無いから、別に恥じらう必要無いしね」
「…」
平然と言われ、言葉を無くすバクラに追い討ちをかけるようには続ける。
「だって了ちゃん二次元専門だし」
「やだなぁ、ちゃん、照れちゃうよー?」
そんな二人のやりとりに、バクラは頭痛を隠せない。
健全な男女の会話だろうか、これは。
いや、そんな筈が無い。
じゃあ何なんだこれは。
来る世界を間違えたかと、
本気で思ったある日の午後。
本気で思ったある日の午後。