城之内の誕生日を祝ってみようか。
 風も空気も冷たい冬の夕方。
 マフラーを巻き付け、コートのポケットに手を突っ込み、生憎一緒に帰る相手のいない寒空の下を歩くの横で、派手なエンジン音を響かせ停車したスポーツカー。
 周りの生徒が注目する中、開いた窓から覗いた顔は、きりりと整った美しい女性。

、ちょっと付き合いな」

 華やかな声に、一瞬きょとんとしたは、次に満面の笑みで頷いた。

「悪いね、

 前を見ながらそう言う舞に、首を振りながらは笑う。

「いやぁ、むしろ大歓迎! どうせ一人だったし、寒くてどうにかなりそうだったし」
「ならいいんだけどさ」

 少し安心したように言う舞は、ハンドルを握ったままでちらりと助手席のを見た。

「あ、あのさぁ

 心なしか声がうわずっている。
 それは自分でも解っている。けれど、今さら落ち着こうとしても、もう遅い。
 更に言えば、不思議そうな表情の妹分には全てお見通しなのも解っているので、今さら隠しようがない。
 その証拠に、は瞬きをしながらずばり口を開いた。

「克也の誕生日なら、先月だったよ、舞姉さん」
「っ…!! っ!!」

 思わず急ブレーキ。

「ぎゃ! 舞姉さん前ぇっ!!」

 顔を青くして悲鳴をあげる彼女には悪いが、今の舞に心の余裕はあまり無い。
 そのまま車を走らせながら、動揺を隠さないままに問う。

「なんで教えてくれなかったんだよ!」
「だって、姉さん何も言わなかったから余計なお世話かと」
「お馬鹿!!」

 反射的に飛び出した言葉に、は肩を竦めるが、気にせず舞は叫ぶように言った。

「ちょっと考えりゃ解るだろ!」

 クラス替え直後の中学生じゃあるまいし、付き合ってもいないのに、誕生日を教えて欲しいなんて言えるものか。
 まさか年下の、しかも高校生にそんな事聞ける訳が無い!

「…姉さんって、可愛いよね…」
「ちょっと! しみじみ何言ってんの!」

 早口でまくしたてるのは、どうにかして照れを隠したいから。
 もう手遅れなのは重々承知でも、せめて年上の威厳としてそれ位は。

「とにかく、今からプレゼント買いに行くから付き合いな!!」

 時刻はもう夕方。
 混んできた道を睨み付けながら言えば、助手席の妹分は「どうして」と言う。
 今日のは物分かりが悪い。それとも、自分が焦っているからだろうか。
 とにかく理由なんか、一つしか無いと言うのに!

「あたしが贈り物したいんだよ! 文句あるかい!?」

 怒鳴るように言えば、笑ったの顔がちらりと視界に入る。

「姉さん、克也にわざわざプレゼント買う必要なんか無いよ」

 その声の後ろでは、鞄の中を漁る音。

「克也にはね…あ、あった!」

 そう言いながら、取り出した何かをは舞の首にかけた。

「これで十分じゃん?」
「ちょっと、何すんの!」

 運転する首元で、何かを結ぶ
 これじゃ危なくて運転できやしない、と慌てて路肩に車を停め、助手席を見ると、がこちらに手鏡を向けている。
 ちいさな四角の中で、左右逆の自分が瞬きする。その首には、赤いリボン。

「な…」

 何のつもりなの。

 その問いを口に出す前に、満足気に笑ったがいたずらな子供のウインクをした。

「克也には、舞姉さんが一等嬉しいプレゼントに決まってるもん」

 何なの、それは。

 その短い一言は、声にならず。代わりに顔が熱く火照るのを感じた。

このませガキ!
その声に迫力なんかある訳ない。

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