キサラ
 図書館の奥には、誰も読まないような本が置いてあって、閲覧用の机がある。
 寝不足の日には、そこで朝から授業をさぼるのがくせになっていた。
 読むかどうかは別として、古い本の匂いも悪くない。

 今日も、そんな日。
 外の日差しは強すぎるし、比べてここは丁度良い。
 横になれないのが難点だけど、机に突っ伏して惰眠を貪る。お昼までの、短い夢。


 ──赤い瞳の黒い竜が、いた。

 なに、お前。

 何かを伝えようとしているのか、じっとこちらを見ているそれは、まるで怪獣映画に出てくるそれのように大きい。
 なのに、恐怖は一切無くて不思議と安心感さえあるんだ。

 お前、ひとりなの?

 右腕を伸ばすと、鋭いラインの竜の頭が降りてきた。
 そっと触れた竜の頭。

 ああ、私はお前を知ってる。お前も私を知ってるんだね。

 思わず微笑んで見つめると、竜は嬉しそうに小さく鳴いた。

 行こうか。お前と私の、望む場所に。

 頷くようにひとつはばたいた竜は、とても。
 そう、とても幸せそうだった。


 ──白銀の髪の少女がいた。

「あれ、キサラ?」

 見慣れた友の顔に、思わず問い掛ける。優しい微笑みにとてつもなく大きな安心感。

「あれ、じゃないわよ。もうお昼なのよ?」

 うん、と言いながら腕を伸ばす。さらさらのキサラの髪に触れた。きもちいいなぁ。

「はいはい。早くしないと昼休みも終わっちゃうわ。さぁ、立って」

 怒ったように言うキサラに、思わず笑みを返して頷いた。

「うん。行こうか」

 立ち上がると、わざとらしく溜息をついたキサラが笑う。
 その顔を見て、思ったんだ。

 あぁ私、幸せだ。
 今、すごい幸せだ。

行きたい場所なんて、
もう最初から決まってる。

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