バクラ
 学校帰り、立ち寄ったコンビニに奴はいた。
 デザートコーナーで、困ったように眉根を寄せて、腕組んで。

「ばーっくら」

 後ろから目隠しをすると、彼は呟いた。

「…うぜえ…」
「他に言うことあるだろ、こら」「いいからどけよ。俺様はお前に構ってやる程暇じゃねぇんだよ、
「はぁ? シュークリーム選ぶのがぁ?」

 手をどけてバクラを睨み付けると、別にいいだろ、と彼はそっぽを向いた。
 ふっふーん、可愛いじゃないの、むくれちゃってさぁ。
 ま、了ちゃんから頼まれたんだろうけど。

「ねぇ、バクラ、私これがいい」

 指差したのは、長いロールケーキ。ウサギの絵のパッケージのやつ。

「……はぁ?」

 案の定、その顔は「何言ってんだ」と言ってる。

「はぁ、じゃなくて、これがいいってば」
「いゃ、お前の分とか買わねぇし「えーなんでよぅ」
「可愛く言っても無駄だっつの」
「けッ」
「女がケッとか言うな」

 何故か躾に厳しいバクラは、ちゃっかり私に注意して、シュークリームを二つ手に取った。

「あっ、ちょっとバクラー!」

 空いてるレジでさっさと会計を済ませて店を出る。

「バクラーバクラバクラバクラぁー!! ばかばかバクラー!!」

 後ろを追い掛けながら名前を連呼する。
 せいぜい恥ずかしがるがいいわ!
 私にロールケーキ買ってくれなかった罰よッ!!

「っだあぁぁぁぁ!! うるせぇ!!」

 叫ぶように言ってバクラは私に振り向いた。

「ほら!」

 ぶっきらぼうに差し出された右手には、とろりんクリームのシュークリーム。

「へ?」
「何間抜け面してんだよ、俺様が恵んでやるって言ってんだよ」
「あぁ、ありがと」

 何よ、ちょっと拍子抜けじゃない。
 でも、しっかりとシュークリームを受け取り、バクラの隣で頬張ってやる。

「んまー!」

 やっぱうまいよ、シュークリーム!!

「くっそ、幸せそうに食いやがって…俺様のシュークリーム…」

 バクラの小さな声は聞かなかった事にして、私はシュークリームを飲み込んだ。

「ごちそうさまでしたー」
「へぇへぇ。じゃあな、俺様行くぜ」

 先に歩きだしたバクラに、満足した私は笑顔で叫ぶ。

「うん! 明日もシュークリーム頼んだわよ!!」
「だぁれがッ!! 調子こくなブスッ!!」

 そう叫び返して、彼はさっさと帰っていった。

「ふぅん…言ったわねー」

覚えておきなさい。
明日が怖いんだからね?

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