盗賊王先輩
「なぁ、お前今から暇かぁ?」

 屋上の特等席、ガラの悪い座り方をしたばく先輩は、いかにもダルそうに言った。
 つか、何で屋上に呼び出したんだこいつ。暑いだろうが、日光がよ。
 せめて体育館裏にしろっての。

「…まぁ、暇かどうかって聞かれたら暇ですけどー?」

 それが何か?
 つか暑くてダルい。
 制服って何でこんな暑いんだ。まじ脱ぎ捨てたい。

「アレ行かねぇか、アレ」
「アレ?」

 アレってなんだよ、名前で言えよ。
 きょとんとする私に、立ち上がった先輩はゆっくりと近づいてきて、にやりと笑った。

「ニョイフルのかき氷」
「あぁ!」

 夏限定のあのキメ細やかな氷。ちょっとリッチに練乳のかかった方を。
 マンゴーも捨てがたいけど、ここはやっぱりオーソドックスなイチゴでしょう!
 うわ、今想像しただけでちょっと気分良くなったわ。

「ばく先輩の奢りなら行くッ! むしろ行きたい!」

 はっきり言ってあのかき氷大好きなんだ、私は。
 だから毎日でも食べたいくらい。

「いいぜぇー?」

 その代わり…と、笑みを深くしたばく先輩は、私を見下ろすとポケットから右手を出した。

「ん?」

 まばたき二回。
 その隙に。

「いっただきーィ」

「………どこめくっとんじゃい」
「短パンはいといて言うせりふじゃねぇよ?」
「はいてないは正義だが、私にゃ当てはまらんね。いい加減手ぇはなせ、変態」

 つまんねー、と言いながら鞄を掴むばく先輩は、ぼそりと一言。

「キサラならはいてねぇだろーなぁー」
「!?」

 聞き捨てならないそのせりふ。

「その時はぶっとはす!」

 大きな背中を追い掛けながら、言った。

見上げた空はもう秋の色。
かき氷は食べ納めかしら?

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