手がかりは輝く(佐賀城)
私を助けてくれた女性は、佐賀城、と名乗った。
佐賀城さんは城娘という存在で、私を襲った人ならざる異形はこのあたりの村を襲っていた兜というモノだと、教えてくれた。
そして佐賀城さんは困ったな、と頭を掻きながら私を見る。
「何も思い出せない、誰もお前を知らない……どうしたもんか」
私はどうやら、この辺に住んでいる訳ではない。
らしい。
周辺の村への聞き込みで、私を知っている人は誰もいなかった。
近くの村の娘だろうという佐賀城さんの読みは外れて、私も申し訳なくてうつむく。
ひとりで大丈夫ですから、気にしないでください。
なんて事を言える勇気も度胸もない私は、初めて親鳥を見たヒナの如く佐賀城さんの後ろをついていくしかなかった。
「手がかりは、そのつやつやした板だけか」
うーん、と唸った佐賀城さんが見たのは、私の手の中にある小さな四角い板。
片面が黒くて、反対側は鈍い銀色をしている。
黒い面は顔が映るほど磨き込まれていて、銀色のほうには黒くて丸いものがはめ込まれていた。
ところどころに、とても小さな突起や細かい穴があいていて、いくつかの部品が組み合わさっているのがわかる。
これ、板じゃないような気がする。
何なのかって言われたら、それはそれで困るけど。
「ちょっと見せてみ」
言われて差し出せば、佐賀城さんはあらゆる角度からその板を眺めて「こんなものは見た事がない」と首を傾げる。
「あのう、佐賀城さん」
「ん?」
「私思ったんですけど、そのちっちゃいとこ、押せそうな気がするんですよ」
「ちっちゃいとこ? あ、これか?」
「そうそう、それです」
薄い板についている……いや、嵌ってる? さらに薄い突起に佐賀城さんの指が伸びる。
かち、と虫が鳴くより小さな音がして次の瞬間、板が光った。
「うわっ!?」
「あっ!」
驚きに声をあげた佐賀城さんの手から板が落ちかけ、私は慌てて手を出して落下を阻止する。
瞬時に動けた自分を褒めてあげたい。
これ、絶対に落としちゃいけないような気がするんだよね……
もう一回同じ突起を押したら、光は消えた。
「なんなんだ、これ」
「わかんないですねぇ。夜に使うものですかね?」
「西洋の品かもしれないな」
「……せいよう……」
二人して首を傾げていると、頼れそうな所がひとつある、と佐賀城さんが腕を組む。
「殿の所なら、西洋の品に詳しい奴もいるはずだ」
「……との……」
とのって、お殿様って事?
私、どこに連れて行かれちゃうんだろう……
少し遅いかもしれないけど、ここに来てほんのり不安が滲んできた。