チャイムが鳴って、ドアを開けると、良く知った少女と見知らぬ青年が揃って立っていた。
思わず飛び出したのは、的外れな質問。
「学校の先生?」
良く考えれば、その青年は教師というには少し若すぎて、更に言えばまるで教職とは無縁そうな容貌なのに。
けれど、龍可ちゃんが大人の男の人と二人でうちに来るなんて想像もしていなかったあたしは、その時他の答えを探せなかったのだ。
そんな私を困ったように見上げた龍可ちゃんは、酷く申し訳なさそうに口を開いた。
「違うの、さん。あのね……」
意を決したように一度口をつぐんだ彼女は、あたしが予想し得なかった言葉を発した。
「このひとを……パラドックスさんを、匿って欲しいの……!」
「…………え?」
龍可ちゃんの言った言葉は聞き違いかしら?
パラドックスと言えば、確か遊星君のスターダストを奪っていった人の名前じゃないかな?
仮にこの男の人がパラドックスその人だったとして。
どうして龍可ちゃんが彼と一緒にやって来たの?
明らかに不審がってしまったあたしの不安は、そっくりそのまま龍可ちゃんに伝染してしまったようで、もう少ししたら涙すら滲んでしまうんじゃないかって位悲しそうな顔をする。
ああ、そんなつもりじゃないのに!
普段年不相応に大人びた龍可ちゃんが、たまに無茶や我儘言う時は必ず理由があるんだって、あたし知ってるわ。
「龍可ちゃん、入って? 話はそれから。さぁ、あなたも」
玄関のドアを大きく開けて二人を招き入れれば、パラドックスは逡巡したような素振り。部屋に入るのを躊躇っているのかしら?
その、まるで動かない暗い表情や自主性を欠いてしまったような様子は、龍可ちゃんでなくても心配になってしまう。
なんとなく、彼女がこの青年を連れてきた理由が解ったような気がして、あたしはひとつ息をつくとパラドックスの腕を半ば無理やり引っ張って彼を部屋に入れた。
「いらっしゃい、パラドックス」
殊更優しく言ったその言葉は、龍可ちゃんのお願いに対する承諾の意を示していると、まだ二人は気付いていないようだけど。
姉さん、困った同居人が増えました。
これはまたひとつ、問題が発生したという事ね。