鬼柳京介
「京介くん」

 テーブルの前に仁王立ちする彼女を、ちらりと見上げた。

「ちょっと、京介くん?」

 再び彼の名前を呼ぶ声は穏やかで、それでも何か刺を含んでいる。
 デッキ調整をしているテーブルの上にはずらりとカードが並んでいるし、あと少しで満足できそうなのに途中で中断はしたくない。

「なんだよ、。今忙しいんだよ」
「そんな言い訳、聞きません。あたし言ったよね? 今日こそは髪切っておいで、って。床屋さんの代金も、昨日渡したよね?」

 微笑む赤茶の瞳は、ひどく物騒な光を浮かべている。
 京介は頬まで伸びた前髪を掻き上げた。
 俯けば色素の薄い髪がカーテンのように視界を遮る。後ろ髪も、もう紐で縛る事ができそうだ。

「なのに、どうしてお金を握って出かけた京介くんはカードのパックを握りしめて帰ってきたのかな? ん?」

 問い詰める穏やかな声に、思わず表情が固まるのを感じた。
 背中を伝う冷や汗を笑いで誤魔化し、口を開く。

「馬鹿じゃねぇのか、。俺がカード持って帰るのなんていつもの事だろ!?」
「声、上ずってるのは何で?」
「なっ……!! 何でって……」

 口籠もった目線の先。微笑むの右手に光る。

「ち、ちょっと待てよ!! 物騒なモン向けんなって!」

 慌ててテーブルに被さりデッキとカードを守ろうとするその耳元で。

 じゃり。

 首筋を撫でられるような感覚と、妙に気味のいい音をたてて一房。テーブルの上に、そして並ぶカードの上に、色素の薄い毛が落ちた。

「あ……」

 あんぐりと口を開けてを見上げると、無表情な彼女は迷わずに京介の髪にハサミをあててゆく。
 しゃく、しゃく、しゃく。
 迷いの無いその手つきに動けない彼の前髪も、瞬く間に短くなって。
 そのうざったいカーテンが取り払われた先には、良く知った少女が満足そうに笑っていた。

「うん、上出来! 京介くん、後片付けは自分でやるのよ?」

 笑う彼女に返す言葉もなく、背を向けて部屋を出ていくを見ながら京介は呟いた。

「こんな髪型じゃ満足できねぇぜ……」

不揃いな毛先に、
今すぐ床屋へ行こうと決めた。

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